最初に結論から:プロンプトエンジニアリングとは何かを一言で言うと?
プロンプトエンジニアリングとは、「AIに対して、どう質問すれば、自分が求める答えを引き出せるか」を工夫することです。
たとえば、友達に「おいしいお店知らない?」と聞くよりも、「渋谷で、予算3,000円くらいで、デートに使えるイタリアンのお店知らない?」と聞いた方が、ピッタリの答えが返ってきますよね。
AIも同じです。ChatGPTやClaude、Geminiなどの生成AIは、質問(プロンプト)の出し方次第で、返ってくる答えの質がまるで変わります。適当に聞けば適当な答えしか返ってこないし、具体的に聞けば具体的な答えが返ってきます。
プロンプトエンジニアリングは、「AIを使いこなすための、質問の技術」なのです。
「AIがうまく使えない」はなぜ起きるのか
「ChatGPTを使ってみたけど、なんか微妙な答えしか返ってこなかった」「AIって結局使えないんじゃない?」——そう感じたことはありませんか?
実は、AIがうまく使えないと感じる原因の多くは、AIの性能ではなく、プロンプト(質問の出し方)にあります。
たとえば、こんな質問をしたとします。
- 「いい文章を書いて」
- 「提案書を作って」
- 「アイデアを出して」
これらは一見、普通の質問に見えますが、実は情報が足りません。「誰に向けて?」「どんな目的で?」「どのくらいの長さで?」といった前提が抜けているため、AIは「とりあえず当たり障りのない答え」を返すしかないのです。
つまり、AIがうまく使えないのは、「AIが賢くない」のではなく、「質問の仕方が曖昧すぎる」ことが原因です。プロンプトエンジニアリングを学ぶことで、この問題は驚くほど簡単に解決できます。
プロンプトエンジニアリングを分解して理解する
プロンプトエンジニアリングは、大きく3つの要素に分けて考えるとわかりやすくなります。
①「何を求めているか」を明確にする(目的の設定)
まず大切なのは、AIに何をしてほしいのかをハッキリさせることです。
たとえば、「メールを書いて」ではなく、「取引先に向けて、納期延期をお詫びするメールを、丁寧なトーンで200字程度で書いて」と伝えると、AIは目的に沿った回答を返しやすくなります。
ポイントは、以下の情報を含めることです。
- 誰に向けて(読者・対象者)
- 何のために(目的・ゴール)
- どんな形式で(メール、記事、リスト、など)
- どのくらいの量で(文字数、項目数など)
こうした前提を伝えることで、AIは「どんな答えを返せばいいか」を理解できるようになります。
②「どんな立場で答えてほしいか」を指定する(役割の設定)
AIに「役割(ロール)」を与えると、答えの質が一気に上がります。
たとえば、次の2つを比べてみてください。
- 「プログラミングを教えて」
- 「あなたは初心者向けのプログラミング講師です。Pythonの基礎を、専門用語を使わずにやさしく教えてください」
後者の方が、AIは「初心者に寄り添った、わかりやすい説明」をしてくれるはずです。
役割の例としては、以下のようなものがあります。
- 「あなたはベテランのマーケティング担当者です」
- 「あなたは小学生にもわかるように説明する先生です」
- 「あなたは厳しくフィードバックをくれるレビュアーです」
役割を与えることで、AIは「その立場ならどう答えるか」を考えて回答するため、より実用的な答えが返ってきます。
③「具体例を示す」(Few-shot prompting)
AIは、例を見せてあげると、それに倣った答えを返す能力があります。これを「Few-shot prompting(少数例プロンプティング)」と呼びます。
たとえば、こんな風に例を示してみましょう。
以下のような形式で、商品の紹介文を3つ書いてください。
例:
商品名:ワイヤレスイヤホン
紹介文:通勤中でも高音質で音楽を楽しめる、軽量でコンパクトなイヤホンです。
このように例を示すと、AIは「あ、こういう形式で答えればいいんだな」と理解し、同じスタイルで回答してくれます。
例を示さずに質問する方法を「Zero-shot prompting」、例を1〜数個示す方法を「Few-shot prompting」と呼びますが、初心者のうちは「迷ったら例を見せる」と覚えておけば十分です。
実際の場面でどう役立つのか
プロンプトエンジニアリングは、日常の仕事や生活のさまざまな場面で役立ちます。ここでは、身近な3つの例を紹介します。
例①:会議の議事録を整理する
会議のメモをとったけれど、ぐちゃぐちゃで読みにくい……そんな経験はありませんか?
こんな風にAIにお願いしてみましょう。
以下の会議メモを、「決定事項」「TODO」「次回までの宿題」の3つに整理してください。箇条書きで、わかりやすくまとめてください。
【メモ内容】
(ここに会議のメモを貼り付ける)
このように「整理の軸」を指定すると、AIは見やすい形にまとめてくれます。議事録作成の時間が、数分の1に短縮されるはずです。
例②:わかりやすいメールを書く
取引先に送るメールを書きたいけれど、敬語や言い回しに自信がない……そんなときにも、プロンプトエンジニアリングが活躍します。
以下の内容を、取引先に送るメールとして、丁寧な言葉遣いで300字程度にまとめてください。
【伝えたいこと】
・納期が2日遅れそう
・原因は部品の入荷遅延
・代替案として、一部先行納品も可能
こうすることで、AIはビジネスマナーに沿った、読みやすいメールを作成してくれます。
例③:アイデア出しの壁打ち相手になってもらう
「新しい企画を考えたいけど、思いつかない……」そんなときは、AIをブレインストーミングの相手にしてみましょう。
あなたは創造的なアイデアを出すのが得意なブレストパートナーです。私は小さなカフェを経営しています。集客につながる、ユニークなイベントのアイデアを5つ提案してください。予算は少なめで、SNSでシェアされやすいものが理想です。
役割と条件を明確にすることで、AIは実現可能性の高いアイデアを複数提案してくれます。そこから「これいいかも!」と思えるものを選んで、さらに深掘りすることもできます。
よくある誤解と落とし穴
プロンプトエンジニアリングを学び始めると、いくつかの「よくある勘違い」にハマることがあります。ここでは、初心者がつまずきやすいポイントを整理します。
誤解①:「プロンプトは長ければ長いほど良い」
確かに、詳しく伝えた方が良い答えが返ってくることは多いです。しかし、情報が多すぎると、AIが混乱してしまうこともあります。
大切なのは「長さ」ではなく、「必要な情報が過不足なく入っているか」です。
たとえば、こんなプロンプトは逆効果です。
私は30代の会社員で、最近副業を始めようと思っていて、ブログを書こうかなと思っているんですけど、どんなテーマがいいですか?ちなみに趣味は読書と旅行で、犬を飼っていて、週末は公園に行くことが多くて……
これだと、AIは「で、結局何を聞きたいの?」となってしまいます。シンプルに「副業ブログのテーマを3つ提案してください。私の趣味は読書と旅行です」と伝えた方が、的確な答えが返ってきます。
誤解②:「一度で完璧な答えを引き出さなきゃいけない」
プロンプトエンジニアリングは、「一発で完璧」を目指すものではありません。むしろ、「何度かやりとりしながら、答えを磨いていく」プロセスです。
最初のプロンプトで満足できる答えが返ってこなくても、「もう少し具体的に書いてください」「カジュアルなトーンに変えてください」と指示を追加することで、どんどん精度が上がっていきます。
AIとの対話は、「会話のキャッチボール」だと思ってください。一球目で完璧である必要はないのです。
誤解③:「プロンプトエンジニアリングは専門家だけのもの」
「プロンプトエンジニア」という職業が注目されたこともあり、「専門知識がないと使いこなせないんじゃ?」と思う人もいるかもしれません。
でも実際は、日常的にAIを使う人全員にとって役立つスキルです。むしろ、「ちょっと工夫するだけで、AIがこんなに便利になるんだ」と気づくことが、一番の価値と言えます。
難しい専門用語を覚える必要はありません。「相手に伝わるように質問する」という、日常会話と同じ感覚で十分なのです。
今日からできる「一歩目」
プロンプトエンジニアリングを学ぶ第一歩として、今日からできることを3つ紹介します。
①無料のAIツールを1つ選んで触ってみる
まずは、以下のような無料の生成AIツールを使ってみましょう。
どれも無料プランがあり、アカウント登録だけで使い始められます。まずは「今日の晩ごはんのメニューを提案して」といった簡単な質問から試してみてください。
②「役割」と「目的」を意識して1つ質問してみる
次に、少しだけ工夫してみましょう。たとえば、こんな質問をしてみてください。
あなたは栄養士です。一人暮らしの社会人向けに、簡単に作れて栄養バランスの良い晩ごはんのメニューを3つ提案してください。調理時間は20分以内でお願いします。
「役割(栄養士)」と「目的(簡単で栄養バランスが良い)」を明確にすることで、答えの質が変わることを実感できるはずです。
③プロンプトをメモして「マイテンプレート」を作る
うまくいったプロンプトは、メモ帳やNotionなどに保存しておきましょう。
たとえば、こんな風に整理します。
- 議事録整理用プロンプト:「以下のメモを、決定事項・TODO・次回の宿題に整理してください」
- メール作成用プロンプト:「以下の内容を、取引先向けに丁寧なメールにまとめてください」
- アイデア出し用プロンプト:「〇〇なアイデアを5つ提案してください」
こうしてテンプレート化しておくと、次回から質問を考える時間が大幅に短縮できます。プロンプトエンジニアリングは、「再利用できる型を作ること」でもあるのです。
もっと深く学びたい人への道しるべ
ここまで読んで、「もっとプロンプトエンジニアリングを学んでみたい!」と思った方へ、次のステップをご紹介します。
NeuroStack内の関連記事
NeuroStackでは、AIやSaaSツールに関する初心者向けの記事を数多く公開しています。以下のような記事も合わせて読むと、理解がさらに深まります。
- AIライティングツールの解説記事:ChatGPTやClaude、Geminiなどの具体的な使い方を学べます
- ワークフロー自動化の記事:AIを業務に組み込む方法を知ることができます
- ノーコードツールの記事:プログラミングなしでAIを活用する方法を学べます
公式のプロンプトガイドを読む
各AIツールの公式サイトには、プロンプトの書き方に関するガイドが公開されています。
英語ですが、ブラウザの翻訳機能を使えば十分読めます。公式の情報なので、正確で実用的な内容が学べます。
コミュニティやオンライン講座を活用する
最近では、プロンプトエンジニアリングに関するオンライン講座も増えています。UdemyやCourseraなどで「プロンプトエンジニアリング」と検索すると、初心者向けの講座が見つかります。
また、XやNote、Qiitaなどで「#プロンプトエンジニアリング」と検索すると、実践的なTipsを共有している人が多く見つかります。他の人の工夫を真似してみるのも、上達の近道です。
まとめ
この記事では、プロンプトエンジニアリングの基本から実践までを、初心者向けに解説しました。
要点を振り返ります:
- プロンプトエンジニアリングとは、AIに対して適切な質問をすることで、求める答えを引き出す技術です
- 大切なのは、「目的を明確にする」「役割を与える」「具体例を示す」の3つです
- 一発で完璧を目指す必要はなく、対話を重ねながら答えを磨いていくプロセスが重要です
- 難しい専門知識は不要で、日常会話と同じ感覚で「相手に伝わるように質問する」だけで十分です
- まずは無料のAIツールを触ってみて、うまくいったプロンプトをテンプレート化していくことから始めましょう
プロンプトエンジニアリングは、特別なスキルではありません。「ちょっとした工夫」を積み重ねることで、AIはあなたの強力なパートナーになります。
今日からさっそく、一歩目を踏み出してみてください。