ゴールと前提条件
このワークフローで自動化する業務
ブログ記事の公開は、一見シンプルに見えて実は多くの工程が含まれています。記事の執筆、校正、WordPress への投稿、アイキャッチ画像の設定、SEO 設定、そしてチームへの通知。これらすべてを手動で行っていると、1記事あたり30分〜1時間の作業時間が必要になります。
このワークフローでは、記事の下書きから公開、チーム通知までの一連のプロセスを7割自動化します。具体的には以下のステップを自動化できます:
- 記事の構成案生成と下書き作成
- WordPressへの自動投稿(下書き状態)
- SEOメタデータの自動設定
- 公開後のSlack通知
- 公開記事の管理データベース更新
前提となる環境
このワークフローを構築するには、以下のツールとアカウントが必要です:
- WordPress:自社ブログまたはオウンドメディア(REST API が利用可能な環境)
- Make:ワークフロー自動化プラットフォーム(旧Integromat)
- ChatGPT API:記事の下書き生成に使用
- Slack:チーム通知用
- Googleスプレッドシート:記事の企画管理(オプション)
技術的なスキルは基本的に不要です。各ツールの設定画面で必要な項目を入力していくだけで構築できます。
全体フローの俯瞰図
ワークフロー全体は、以下の4つのステップで構成されています:
1. トリガー(記事企画の入力)
→ Googleスプレッドシートに記事タイトルとキーワードを入力するか、Slackコマンドで記事作成をリクエスト
2. AI処理(記事の生成)
→ ChatGPT APIが記事の構成案と本文の下書きを自動生成
3. データ連携(WordPressへ投稿)
→ Makeが生成された記事をWordPressに自動投稿(下書き状態)し、SEOメタデータを設定
4. 通知と記録
→ Slackに下書き完了通知を送信し、スプレッドシートに公開ステータスを記録
この流れにより、記事企画の入力から下書き完成まで約3〜5分で完了します。人間が行うのは最終チェックと公開ボタンを押すだけです。
使用するツールと役割
WordPress – 記事の最終公開先
WordPressは、世界で最も使われているコンテンツ管理システム(CMS)です。このワークフローでは、REST APIを通じて記事の自動投稿を受け付ける役割を担います。
WordPressの管理画面で「アプリケーションパスワード」を発行することで、外部ツールから安全に記事を投稿できるようになります。
Make – ワークフロー全体の司令塔
Makeは、複数のアプリケーションを連携させるノーコード自動化プラットフォームです。このワークフローでは、各ツール間のデータの受け渡しと処理の順序制御を担当します。
視覚的なフローチャートで設定できるため、プログラミング知識がなくても複雑な自動化を実現できます。無料プランでも月1,000回の実行が可能で、小規模なブログなら十分です。
ChatGPT API – 記事の下書き生成
ChatGPT API(OpenAI API)は、高品質な文章を生成するAIサービスです。このワークフローでは、記事の構成案作成と本文の下書き生成を担当します。
キーワードとターゲット読者を指定するだけで、SEOを意識した構成案と、読みやすい本文を自動生成できます。2025年現在、GPT-4やGPT-4 Turboモデルを使用することで、より高品質な記事が生成できます。
Slack – チームへの通知
Slackは、チームコミュニケーションツールです。このワークフローでは、記事の下書き完成や公開完了をチームに通知する役割を果たします。
専用チャンネルに通知を集約することで、ブログ運営チーム全員が記事のステータスを把握できます。
Googleスプレッドシート – 記事企画の管理(オプション)
記事のタイトル、キーワード、ターゲット読者などを管理するデータベースとして使用します。新しい行が追加されたことをトリガーにワークフローを起動できます。
手順詳細(ステップバイステップ)
STEP 1: WordPress側の準備(アプリケーションパスワード発行)
まず、WordPressでMakeからの投稿を受け付けられるように設定します。
- WordPressの管理画面にログイン
- 左メニューから「ユーザー」→「プロフィール」を選択
- ページ下部の「アプリケーションパスワード」セクションまでスクロール
- 「新しいアプリケーションパスワード名」に「Make連携用」と入力
- 「新しいアプリケーションパスワードを追加」をクリック
- 表示されたパスワードをコピーして安全な場所に保存(二度と表示されません)
つまづきポイント:アプリケーションパスワード機能が表示されない場合、WordPressのバージョンが古い可能性があります。WordPress 5.6以降であれば標準機能として利用できます。
STEP 2: ChatGPT APIキーの取得
- OpenAI Platformにアクセスしてアカウント作成
- 右上のアカウントメニューから「API keys」を選択
- 「Create new secret key」をクリック
- キーに名前をつける(例:「Make-WordPress連携」)
- 生成されたAPIキーをコピーして保存
- クレジットカード情報を登録(従量課金制、初回5ドル分の無料クレジット付き)
コスト目安:GPT-4 Turboモデルで1記事あたり約0.1〜0.3ドル(約15〜45円)。月30記事でも450〜1,350円程度です。
STEP 3: Makeでワークフローを構築
ここからがメインの設定です。Makeで各ツールを連携させていきます。
3-1. Makeアカウント作成とシナリオ新規作成
- Makeでアカウント作成(無料プラン可)
- ダッシュボードから「Create a new scenario」をクリック
- シナリオ名を「ブログ記事自動公開フロー」などに設定
3-2. トリガーの設定(Googleスプレッドシート)
- 「+」ボタンをクリックしてモジュールを追加
- 「Google Sheets」を検索して選択
- 「Watch New Rows」を選択
- Googleアカウントで認証
- 記事企画管理用のスプレッドシートを選択
- 監視するシート名を指定(例:「記事企画リスト」)
- 「Header row」を1に設定(1行目が列名の場合)
スプレッドシートの列構成例:
| 記事タイトル | キーワード | ターゲット読者 | 文字数 | ステータス |
|---|---|---|---|---|
| Notionの使い方入門 | Notion,初心者,使い方 | Notion未経験者 | 3000 | 下書き作成中 |
3-3. ChatGPTで記事を生成
- 次のモジュールとして「OpenAI」を追加
- 「Create a Completion」を選択
- APIキーを入力して接続
- Modelで「gpt-4-turbo-preview」または「gpt-4」を選択
- Promptフィールドに以下のようなテンプレートを設定:
あなたはプロのブログライターです。以下の条件で記事を作成してください。
【記事タイトル】{{1.記事タイトル}}
【キーワード】{{1.キーワード}}
【ターゲット読者】{{1.ターゲット読者}}
【文字数】{{1.文字数}}字程度
以下の構成で記事を書いてください:
1. 導入(読者の悩みに共感)
2. 本文(具体的な解決策を3〜5個)
3. まとめ(次のアクションを促す)
HTML形式で出力してください。見出しは<h2>、<h3>を使用し、段落は<p>タグで囲んでください。
{{1.記事タイトル}}などは、前のモジュール(Googleスプレッドシート)から取得したデータが自動的に挿入されます。
- 「Max Tokens」を4000程度に設定(長文記事用)
- 「Temperature」を0.7に設定(創造性とバランスを取る)
3-4. WordPressに投稿
- 次のモジュールとして「HTTP」→「Make a request」を選択
- URLに「https://あなたのサイト.com/wp-json/wp/v2/posts」を入力
- Methodを「POST」に設定
- Headersセクションで以下を追加:
- Content-Type: application/json
- Authorization: Basic {{base64(ユーザー名:アプリケーションパスワード)}}
- Body typeを「Raw」に設定
- Content typeを「JSON」に設定
- Request contentに以下のJSON構造を入力:
{
"title": "{{1.記事タイトル}}",
"content": "{{2.choices[].message.content}}",
"status": "draft",
"meta": {
"description": "{{substring(2.choices[].message.content, 0, 160)}}"
}
}
つまづきポイント:Authorization ヘッダーの設定が難しい場合は、MakeのWordPress専用モジュール(「WordPress」→「Create a Post」)を使うと簡単です。ただし、一部の高度な設定はHTTPモジュールの方が柔軟です。
3-5. Slackに通知
- 最後のモジュールとして「Slack」を追加
- 「Create a Message」を選択
- Slackワークスペースで認証
- 通知先チャンネルを選択(例:#blog-updates)
- Messageフィールドに以下を設定:
:memo: 新しい記事の下書きが完成しました!
**タイトル:** {{1.記事タイトル}}
**WordPress URL:** {{3.body.link}}
**ステータス:** 下書き
最終チェックをお願いします :point_right: {{3.body.link}}
3-6. スプレッドシートのステータス更新(オプション)
- 「Google Sheets」→「Update a Row」モジュールを追加
- 同じスプレッドシートとシートを選択
- Row IDに{{1.__IMTINDEX__}}を指定(トリガーで取得した行番号)
- 「ステータス」列に「下書き完了」と入力
STEP 4: テスト実行
- Makeの画面下部にある「Run once」をクリック
- Googleスプレッドシートに新しい行を追加
- Makeのシナリオ画面で実行状況を確認
- 各モジュールに緑のチェックマークがつけば成功
- WordPressの管理画面で下書きが作成されているか確認
- Slackに通知が届いているか確認
エラーが出た場合の確認ポイント:
- 各モジュールをクリックして、入力データと出力データを確認
- 赤い×マークがついたモジュールでエラーメッセージを読む
- APIキーやパスワードが正しく入力されているか再確認
- WordPressのREST APIが有効になっているか確認
STEP 5: 自動実行の設定
- シナリオ画面左下の「Scheduling」をクリック
- 「Run scenario」を「Immediately as data arrives」に設定
- または「At regular intervals」で15分ごとなどに設定
- 「ON」スイッチをクリックして自動実行を有効化
これで、スプレッドシートに新しい行を追加するだけで、自動的に記事が生成されてWordPressに投稿されるようになりました。
自動化前後でどう変わるか(ビフォーアフター)
作業時間の比較
| 工程 | 自動化前 | 自動化後 |
|---|---|---|
| 記事構成作成 | 20分 | 自動(0分) |
| 下書き執筆 | 60分 | 自動(3分) |
| WordPress投稿 | 5分 | 自動(0分) |
| SEO設定 | 10分 | 自動(0分) |
| チーム通知 | 5分 | 自動(0分) |
| 最終チェック・修正 | – | 15分 |
| 合計 | 100分 | 18分 |
約82%の時間削減を実現できます。月30記事なら、50時間→9時間に短縮されます。
品質面での変化
自動化前の課題:
- 執筆者によって記事の構成や品質にバラつきがある
- SEOキーワードの入れ忘れが発生
- 公開タイミングがバラバラで計画的な運用が難しい
- チームへの共有が属人的で漏れが発生
自動化後の改善:
- AIが一定のテンプレートで生成するため、構成が統一される
- プロンプトで指定したキーワードが必ず含まれる
- スプレッドシートで計画的に記事をスケジュール管理できる
- Slack通知で全員が自動的に状況を把握できる
チーム運営での変化
自動化により、ライターは「執筆」から「編集・監修」にシフトできます。AIが生成した下書きを人間がブラッシュアップする形になるため、より高品質な記事を短時間で量産できるようになります。
また、記事の企画段階でスプレッドシートに情報を入力すれば、あとは自動的に進行するため、進捗管理の負担も大幅に軽減されます。
応用・拡張アイデア
1. アイキャッチ画像の自動生成・設定
MakeのワークフローにDALL-E 3 APIやMidjourney連携を追加することで、記事に合わせたアイキャッチ画像も自動生成できます。または、Unsplash APIから関連画像を自動取得して設定することも可能です。
追加するモジュール:
- OpenAI「Create an Image」(DALL-E 3)
- HTTP「Download a file」(画像をダウンロード)
- WordPress「Upload Media」(WordPressにアップロード)
- WordPress「Update a Post」(アイキャッチ画像として設定)
2. 複数のAIモデルで品質を向上
1つの記事を複数のAIモデルで生成し、最も品質の高いものを選択する仕組みも構築できます。
- ChatGPT(GPT-4)で下書きを生成
- Claude(Anthropic)で別バージョンを生成
- 両方をSlackに送信して人間が選択
- または、ChatGPTに両方を評価させて高品質な方を自動選択
3. SEO自動分析と最適化
生成された記事に対して、さらにSEO分析を自動実行できます:
- AhrefsやSEMrushのAPIで競合記事を分析
- 不足しているキーワードをChatGPTに追加させる
- メタディスクリプションを自動生成
- 内部リンクの候補を提案
4. 多言語展開の自動化
ChatGPTの翻訳機能を使えば、1つの日本語記事から英語版、中国語版なども自動生成できます:
- 日本語記事を生成
- ChatGPTで英語に翻訳
- WordPress Multisiteの英語サイトに自動投稿
- 各言語版の公開状況をスプレッドシートで管理
5. 公開スケジュールの自動化
WordPressの予約投稿機能と組み合わせることで、完全な公開自動化も可能です:
- スプレッドシートに「公開予定日時」列を追加
- Makeで日時をWordPressのscheduled投稿として設定
- 公開1時間前にSlackでリマインド通知
- 公開後にSNS(Twitter/X、Facebook)にも自動投稿
6. 読者反応の自動収集と分析
公開後の分析も自動化できます:
- Google Analytics APIで記事のPVを定期取得
- コメント数、SNSシェア数を収集
- データをスプレッドシートに蓄積
- 週次レポートをSlackに自動送信
- 人気記事の傾向をChatGPTに分析させる
よくある質問・つまづきポイントQ&A
Q1: Makeのトリガーが発火しません
A: 以下を確認してください:
- シナリオが「ON」になっているか(画面左下のスイッチ)
- Googleスプレッドシートの監視設定で正しいシートを選択しているか
- 「Watch New Rows」は既存の行には反応しません。新しく追加した行で試してください
- Makeの無料プランでは15分間隔でチェックされます。すぐに反応しない場合があります
Q2: ChatGPTのAPI利用料金が心配です
A: コスト管理のポイント:
- OpenAIのダッシュボードで「Usage limits」を設定(月額上限を設定可能)
- GPT-4 Turboモデルは高品質ですが、コストが気になる場合はGPT-3.5 Turboでも十分実用的
- Max Tokensを適切に設定(4000なら1記事あたり約0.1ドル)
- 月30記事でも3〜10ドル程度(450〜1,500円)です
Q3: 生成される記事の品質が低いです
A: プロンプトの改善がカギです:
- 「具体例を3つ以上含めてください」など詳細な指示を追加
- 「〜のような文体で」と参考記事のURLを示す
- 「専門用語は必ず説明を加える」などルールを明記
- Temperatureを下げる(0.5程度)とより正確な出力になります
- 何度か試行錯誤してプロンプトをブラッシュアップしましょう
Q4: WordPressへの投稿で「401 Unauthorized」エラーが出ます
A: 認証設定を再確認してください:
- アプリケーションパスワードが正しくコピーされているか
- WordPressのユーザー名(メールアドレスではなく)を使っているか
- Base64エンコードが正しく設定されているか
- WordPressプラグインで REST API がブロックされていないか確認
Q5: Slackに通知が届きません
A: 以下を確認:
- MakeとSlackの連携時に、該当チャンネルへの投稿権限を付与したか
- プライベートチャンネルの場合、Makeアプリを招待する必要があります
- Makeのシナリオ実行履歴でSlackモジュールまで到達しているか確認
Q6: 記事の構成が毎回似たり寄ったりになります
A: バリエーションを増やす工夫:
- スプレッドシートに「記事タイプ」列を追加(ハウツー、リスト形式、比較記事など)
- プロンプトで「記事タイプが{{記事タイプ}}の形式で書いてください」と指示
- Temperatureを0.8〜0.9に上げると創造性が増します(ただし正確性は下がる)
- 定期的にプロンプトテンプレートを更新
Q7: Makeの無料プランの制限が心配です
A: 無料プランでできること:
- 月1,000回の実行(1日33記事相当)
- アクティブシナリオ2つまで
- 15分間隔のスケジュール実行
月30記事程度なら無料プランで十分です。それ以上の規模になったら、月9ドルのCoreプランへのアップグレードを検討しましょう。
Q8: エラーが発生した時の通知を受け取りたい
A: Makeのエラーハンドリング機能を活用:
- 各モジュールに「Error handler」を追加できます
- エラー発生時に別のルートに分岐させる
- エラー内容をSlackに通知する
- または、Make自体の設定で「Run scenario on error」を有効にして再試行させる
まとめ:まずどこから着手すべきか
ここまで、ブログ記事公開ワークフローの完全自動化について詳しく解説してきました。しかし、いきなりすべてを構築しようとすると挫折しやすいのも事実です。
最初の一歩:ここだけ自動化しよう
まずは「ChatGPTで下書きを生成 → Slackに送信」だけを自動化してみましょう。
この最小構成なら、必要なのはMakeとChatGPT APIとSlackだけ。30分もあれば構築できます。WordPressへの投稿は、下書きをコピー&ペーストで手動で行えばOKです。
これだけでも、記事執筆時間が60分→15分に短縮されます。
次のステップ:WordPress自動投稿を追加
最小構成で慣れたら、次はWordPressへの自動投稿を追加します。アプリケーションパスワードの設定とHTTPモジュールの設定を行うことで、完全なハンズフリー化が実現します。
最終形:応用機能の追加
基本フローが安定したら、アイキャッチ画像の自動生成、SEO分析、公開スケジュール管理など、自分のニーズに合わせて機能を追加していきましょう。
重要なのは「小さく始めて、徐々に拡張する」こと
ワークフロー自動化は、一度に完璧を目指す必要はありません。まずは1つの工程を自動化し、効果を実感してから次に進むことで、無理なく継続できます。
この記事で紹介したワークフローを参考に、あなたのブログ運営を次のレベルに引き上げてください。AIとノーコードツールの組み合わせは、2025年以降のコンテンツマーケティングにおいて必須のスキルになっていくはずです。
今日から、あなたも「記事を書く人」から「記事作成フローを設計する人」へとシフトしていきましょう。