1. ゴールと前提条件
このワークフローで実現できること
顧客データの統合管理とセグメント別メール配信の自動化は、マーケティングやカスタマーサクセスの現場で避けて通れない課題です。本ワークフローでは、以下を実現します:
- 複数のツールに散らばった顧客データをNotionに一元集約
- 顧客属性や行動データに基づいた自動セグメント分け
- セグメントごとに最適化されたメールの自動配信
- 配信結果の記録と効果測定の自動化
手作業で顧客リストをExcelで管理し、メールを個別に送信していた作業が、95%以上自動化され、担当者はより戦略的な業務に集中できるようになります。
前提となる環境
このワークフローを実装するには、以下の環境が必要です:
- Notionのワークスペース(無料プランでも可能ですが、チーム利用ならPlusプラン以上を推奨)
- Makeのアカウント(旧Integromat、無料プランで月1,000オペレーションまで利用可能)
- Gmailアカウント(Google Workspaceでも可)
- Googleスプレッドシートの利用環境
- 基本的なデータベースとAPI連携の知識(初心者でも画面を見ながら進められます)
想定読者:マーケティング担当者、カスタマーサクセス担当者、営業マネージャー、スタートアップの創業メンバーなど、顧客との継続的なコミュニケーションを効率化したい方
2. 全体フローの俯瞰図
このワークフローは、大きく分けて4つのステージで構成されます:
ステージ1:データ収集と統合
→ 複数のソース(フォーム送信、Webサイト、外部CRMなど)から顧客データがGoogleスプレッドシートまたは直接Notionに入力される
ステージ2:自動セグメント分類
→ Notionデータベースで顧客属性(業種、契約プラン、最終接触日、エンゲージメントスコアなど)を元に自動的にセグメントを付与
ステージ3:条件トリガーとメール配信
→ Makeが定期的にNotionをチェックし、「セグメントAで過去30日間接触なし」などの条件に該当する顧客を抽出してGmail経由で自動配信
ステージ4:結果記録と次回アクション設定
→ メール送信後、Notionに配信日時と内容を自動記録し、次回フォローアップ日を設定。開封率などのデータも後からGoogleスプレッドシートに集約
この流れにより、「データ入力→セグメント判定→配信→記録」という一連のプロセスが完全自動化され、担当者は配信コンテンツの質を高めることに注力できます。
3. 使用するツールと役割
Notion(顧客データベースの中核)
Notionは、このワークフローの心臓部です。顧客情報を一元管理するCRMデータベースとして機能し、以下のプロパティを設定します:
- 基本情報:会社名、担当者名、メールアドレス、業種
- セグメント情報:契約プラン、利用ステージ、エンゲージメントレベル(マルチセレクトで複数付与可能)
- 日付情報:初回接触日、最終メール送信日、次回フォロー予定日
- 数値・スコア:契約金額、エンゲージメントスコア
- ステータス:リード、商談中、契約中、休眠中などのステージ管理
Notionの強みは、関数(Formula)やロールアップ機能を使って、データを動的に集計・分析できる点です。たとえば「最終接触日から30日以上経過している顧客」を自動で抽出するビューを作成できます。
Make(自動化エンジン)
Makeは、各ツールを繋ぐ自動化プラットフォームです。このワークフローでは以下の役割を担います:
- Googleスプレッドシートの新規行をトリガーに、Notionデータベースへ顧客情報を自動登録
- 定期実行(例:毎週月曜9時)で、Notionから特定条件の顧客を抽出
- セグメント別にメール本文を動的に生成し、Gmail APIで送信
- 送信結果をNotionに自動記録
Makeは視覚的なフローチャート形式でワークフローを構築できるため、コーディング不要で複雑な自動化を実現できます。
Gmail(メール配信エンジン)
Gmail(またはGoogle Workspace)は、実際のメール配信を担当します。Makeを通じてAPIで制御し、以下を実現します:
- 顧客ごとにパーソナライズされたメールの送信
- 差し込み変数(会社名、担当者名など)の自動挿入
- 送信エラーのハンドリング
Gmailの送信制限(1日500通まで)に注意が必要ですが、中小規模のマーケティングには十分です。大規模配信が必要な場合は、SendGridやMailchimpとの連携も検討できます。
Googleスプレッドシート(データ収集ハブ)
Googleスプレッドシートは、外部フォームやWebサイトからのデータ受け皿として機能します:
- Google Formsやサードパーティツールからのデータ蓄積
- 既存の顧客リストのインポート先
- メール配信結果の効果測定データの集約
スプレッドシートに新規行が追加されたタイミングをMakeがキャッチし、Notionへの自動同期が始動します。
4. 手順詳細(ステップバイステップ)
STEP 1:Notionで顧客管理データベースを構築する
まず、Notionで顧客管理用のデータベースを作成します。
設定する主なプロパティ:
| プロパティ名 | タイプ | 用途 |
|---|---|---|
| 会社名 | タイトル | 顧客の識別子 |
| 担当者名 | テキスト | メールの宛先名 |
| メールアドレス | メール | 配信先 |
| 業種 | セレクト | IT/製造/小売など |
| 契約プラン | セレクト | 無料/スタンダード/プレミアム |
| セグメント | マルチセレクト | 新規/アクティブ/休眠/VIPなど |
| ステータス | ステータス | リード/商談中/契約中/休眠 |
| 初回接触日 | 日付 | 最初にコンタクトした日 |
| 最終メール送信日 | 日付 | 最後にメールを送った日 |
| 次回フォロー日 | 日付 | 次回アプローチする予定日 |
| エンゲージメントスコア | 数値 | 顧客の活動度合い(0-100) |
| 経過日数 | 数式 | dateBetween(now(), prop(“最終メール送信日”), “days”) |
つまづきポイント:「経過日数」のような計算プロパティは、Notionの数式(Formula)で設定します。上記の式をそのままコピーペーストすれば、最終メール送信日からの経過日数が自動計算されます。
STEP 2:Googleスプレッドシートでデータ受け皿を準備
新規顧客情報を受け取るためのスプレッドシートを作成します。列は以下のように設定:
- A列:タイムスタンプ(自動記録)
- B列:会社名
- C列:担当者名
- D列:メールアドレス
- E列:業種
- F列:契約プラン
- G列:備考
Google Formsを使っている場合は、フォーム送信時に自動的にこのシートに追記されるように設定します。
STEP 3:MakeでGoogleスプレッドシート→Notion連携シナリオを構築
Makeにログインし、新しいシナリオを作成します。
モジュール構成:
- トリガー:Google Sheets「Watch Rows」
→ 指定したスプレッドシートの新規行を監視。新しい行が追加されたら自動実行開始。 - アクション:Notion「Create a Database Item」
→ 取得したスプレッドシートのデータをNotionデータベースに新規レコードとして追加。
各列のデータを、Notionの対応するプロパティにマッピングします。
設定のポイント:
- Notion連携時は、データベースIDが必要です。NotionでデータベースのURLをコピーし、「https://www.notion.so/xxx…?v=xxx」のうち「xxx…」の部分がデータベースIDです。
- セレクトやマルチセレクトプロパティは、Notionで事前に選択肢を作成しておく必要があります。
- 「初回接触日」には、スプレッドシートの「タイムスタンプ」列をマッピングします。
つまづきポイント:Notionのプロパティ名は日本語でも問題ありませんが、Make側で正しく認識されない場合があります。その場合は、プロパティIDで指定するか、英語名に変更してみてください。
STEP 4:Notionでセグメント自動判定ルールを設定
Notionのデータベースビュー機能を使って、セグメントを自動判定します。
例:休眠顧客セグメント
- フィルター条件:「最終メール送信日」が「30日以上前」かつ「ステータス」が「契約中」
- このビューに該当する顧客には、手動で「セグメント:休眠」タグを付与するか、後述のMakeシナリオで自動付与
例:VIP顧客セグメント
- フィルター条件:「契約プラン」が「プレミアム」または「エンゲージメントスコア」が「80以上」
- このビューに該当する顧客には「セグメント:VIP」タグを付与
より高度な自動化をしたい場合は、Makeで定期実行シナリオを組み、Notionデータベースを検索して条件に該当する顧客のセグメントを自動更新することも可能です。
STEP 5:Makeでセグメント別メール配信シナリオを構築
いよいよメール配信の自動化です。新しいシナリオを作成します。
モジュール構成:
- トリガー:Schedule(スケジュール実行)
→ 毎週月曜9:00など、定期実行のタイミングを設定 - アクション:Notion「Search Objects」
→ データベースから特定条件の顧客を検索
例:「セグメント:休眠」タグがあり、「次回フォロー日」が今日以前の顧客 - 条件分岐:Router(ルーター)
→ セグメントごとに異なるメール内容を送り分けるために使用
ルート1:VIP顧客向け
ルート2:休眠顧客向け
ルート3:新規リード向け - アクション:Gmail「Send an Email」
→ 各ルートごとに異なるメールテンプレートを設定
To: {{メールアドレス}}
Subject: {{担当者名}}様、ご無沙汰しております
Body: カスタマイズしたメール本文(後述) - アクション:Notion「Update a Database Item」
→ メール送信後、Notionの該当レコードを更新
「最終メール送信日」を今日の日付に更新
「次回フォロー日」を30日後に設定
メール本文のテンプレート例(休眠顧客向け):
件名:{{担当者名}}様、ご無沙汰しております
{{担当者名}}様
お世話になっております、NeuroStackのKTです。
{{会社名}}様には以前{{契約プラン}}プランをご利用いただいておりましたが、
最近ご利用の様子が見られず、何かお困りではないかと思いご連絡いたしました。
もし操作方法でわからないことがあったり、
新機能のご案内が必要でしたら、お気軽にご連絡ください。
また、現在のご利用状況に合わせて最適なプランのご提案も可能です。
引き続きよろしくお願いいたします。
KT
NeuroStack
つまづきポイント:Gmailの送信制限(1日500通)に注意してください。大量配信が必要な場合は、Makeのフィルター機能で1回の実行あたり50件までに制限するなどの工夫が必要です。
STEP 6:効果測定データの記録
メール配信後の効果測定も自動化します。
シンプルな方法:
- Notionに「配信履歴」データベースを別途作成
- Makeのシナリオで、メール送信後に配信履歴を自動記録
- 記録内容:配信日時、宛先、セグメント、件名、配信結果(成功/失敗)
高度な方法:
- Gmail APIで開封トラッキングを実装(技術的ハードルは高め)
- メール内にUTMパラメータ付きリンクを設置し、Google Analyticsで計測
- 返信があった場合は、Makeで自動検知してNotionのエンゲージメントスコアを加点
5. 自動化前後でどう変わるか(ビフォーアフター)
作業時間の比較
| 作業内容 | 自動化前(手動) | 自動化後 |
|---|---|---|
| 顧客データの整理 | 週2時間 | 0分(自動同期) |
| セグメント分類 | 週1時間 | 0分(条件で自動判定) |
| メール作成・送信 | 1件あたり3分×50件=150分 | 0分(テンプレート自動配信) |
| 配信結果の記録 | 週30分 | 0分(自動記録) |
| 合計 | 週5.5時間 | 初回設定2時間のみ |
週5.5時間 × 4週 = 月22時間の削減。年間では264時間(約33営業日)の時間が生み出されます。
ミスの削減
自動化前:
- 送信先を間違える(月2-3件)
- 担当者名の誤字脱字(月5-6件)
- 古いメールアドレスへの配信(月3-4件)
- 送信漏れ(月1-2件)
自動化後:
- データベースから正確に抽出されるため、送信ミスほぼゼロ
- 差し込み変数により、担当者名は常に正確
- Notion上でデータを最新化すれば、次回配信に自動反映
チーム間の共有のしやすさ
自動化前:
- 誰がどの顧客にいつメールしたか不明瞭
- Excelファイルが個人PCに散在
- 担当者が変わると引き継ぎに時間がかかる
自動化後:
- Notionで全履歴が一元管理され、誰でもリアルタイムで確認可能
- 「次回フォロー日」が自動設定されるため、タスク漏れなし
- チームメンバーの追加も簡単で、権限管理も柔軟
6. 応用・拡張アイデア
Slackへの通知連携
MakeのシナリオにSlack通知を追加すれば、メール配信完了時にチャンネルへ自動通知できます:
- 「本日、休眠顧客15名にフォローメールを送信しました」
- 「VIP顧客3名への月次レポート配信が完了しました」
ChatGPT APIでメール本文の自動生成
顧客ごとにパーソナライズされたメール本文を、ChatGPT APIで動的生成できます:
- Notionから顧客の「業種」「契約プラン」「過去の問い合わせ履歴」などを取得
- これらをプロンプトに含めてChatGPT APIに投げる
- 生成された文章をGmailで送信
これにより、完全にカスタマイズされた「手書き風」メールを自動配信できます。
Google Analyticsとの連携で効果測定を強化
メール内のリンクにUTMパラメータを自動付与し、Google Analyticsでクリック率やコンバージョン率を計測:
- utm_source=email
- utm_medium=automation
- utm_campaign={{セグメント名}}
これにより、セグメント別のROIを可視化できます。
SendGridやMailchimpへの拡張
Gmailの送信制限を超える大規模配信が必要な場合は、SendGridやMailchimpと連携:
- Makeから直接SendGrid APIを叩いて配信
- 開封率・クリック率の自動取得
- 配信結果をGoogleスプレッドシートに自動記録
顧客の行動データをトリガーにしたメール配信
Webサイトの特定ページを訪問した顧客に自動でフォローメールを送る:
- Google Analyticsやヒートマップツールから行動データを取得
- Makeで「料金ページを3回以上訪問」などの条件を判定
- 該当顧客に「料金プランについてのご相談はいかがですか?」とメール送信
7. よくある質問・つまづきポイントQ&A
Q1: Makeのシナリオがトリガーされません。どこを確認すればいいですか?
A: 以下を順にチェックしてください:
- シナリオがONになっているか:Makeの画面左下のトグルスイッチを確認
- トリガーの設定が正しいか:Googleスプレッドシートの場合、シート名やレンジが正確か確認
- 権限が付与されているか:NotionやGoogleの連携時に、必要な権限を全て許可したか確認
- 実行履歴を確認:Makeの「History」タブでエラーメッセージを確認
Q2: Notionのデータベースが取得できません
A: Notionの連携設定を見直してください:
- Makeとの連携時に、該当のデータベースへのアクセス権限を付与しましたか?
- データベースIDが正しいか確認(URLの「?v=」より前の部分)
- Notionのワークスペースが「プライベート」になっていないか確認
Q3: メールが送信されたのに、Notionの更新がされません
A: Makeのシナリオで、以下を確認してください:
- Gmail送信後のモジュールとして、Notion「Update a Database Item」が正しく配置されているか
- 更新対象のレコードIDが正しく渡されているか(前段のNotion検索結果からIDをマッピング)
- エラーハンドリングが設定されているか(Gmail送信失敗時はNotion更新をスキップするなど)
Q4: 同じ顧客に何度もメールが送られてしまいます
A: Notionのフィルター条件を見直してください:
- 「最終メール送信日」が「30日以上前」などの条件が正しく設定されているか
- メール送信後、必ず「最終メール送信日」を更新するMakeモジュールが動作しているか
- Notionのビューで、テスト的に手動でフィルターをかけて、期待通りの顧客が抽出されるか確認
Q5: Gmailの送信制限に引っかかってしまいました
A: Gmailは1日500通(Google Workspaceは2,000通)の送信制限があります。対策:
- Makeのフィルターで、1回の実行あたりの送信数を制限(例:50件まで)
- スケジュール実行を1日複数回に分散(朝・昼・夕など)
- 大規模配信が必要な場合は、SendGridなどの専用サービスへ移行
Q6: セグメント分類が自動化できません
A: Notionの数式やMakeの条件分岐を活用してください:
- シンプルな方法:Notionのビューで手動でセグメントタグを付与
- 半自動化:Notionの数式で「if(経過日数 > 30, “休眠”, “アクティブ”)」のように判定
- 完全自動化:Makeで定期実行シナリオを組み、条件に応じてNotionのセグメントプロパティを更新
8. まとめ:まずどこから着手すべきか
このワークフローは、一度に全てを構築する必要はありません。段階的に自動化を進めることで、リスクを抑えながら効果を実感できます。
フェーズ1:データ基盤の整備(1週間)
まずは以下から始めましょう:
- Notionで顧客管理データベースを作成
- 既存の顧客リストをインポート(CSV経由)
- セグメントやステータスのプロパティを設定
この段階では、まだ自動化は不要です。データベース構造を固めることが最優先です。
フェーズ2:データ連携の自動化(1週間)
次に、データ入力の自動化に着手:
- Googleスプレッドシートから Notionへの自動同期シナリオを構築
- フォーム送信時に自動でNotionに顧客が追加される仕組みを確認
- 数件のテストデータで動作確認
ここまでできれば、手動でのデータ入力作業がほぼゼロになります。
フェーズ3:シンプルなメール配信の自動化(2週間)
最初は、1種類のセグメント(例:休眠顧客)だけを対象にメール配信を自動化:
- Makeで週1回のスケジュール実行を設定
- Notionから「休眠顧客」セグメントを抽出
- 固定のメールテンプレートで配信
- 送信後、Notionに日付を記録
テストは少人数(5〜10名)で始め、問題なければ対象を拡大します。
フェーズ4:複数セグメントへの展開(1ヶ月〜)
運用が安定したら、他のセグメントにも展開:
- VIP顧客向けの月次レポート配信
- 新規リードへのオンボーディングメール
- 契約更新が近い顧客へのリマインド
各セグメントごとに効果測定を行い、PDCAサイクルを回しましょう。
最初の一歩として推奨する作業
いきなり全部を自動化しようとせず、「週に1回、休眠顧客10名にフォローメールを送る」というミニマムなゴールから始めてください。
これだけでも、手動で行っていた作業が週30分削減され、顧客との接点が確実に増えます。そして、この小さな成功体験が、次の自動化へのモチベーションになります。
最後に
顧客データの統合管理とセグメント配信の自動化は、マーケティングやカスタマーサクセスの業務を劇的に効率化します。NotionとMakeを組み合わせることで、専門的なCRMツールに頼らずとも、自社の業務フローにぴったり合った仕組みを柔軟に構築できます。
このレシピを参考に、ぜひあなたのチームでも「手放せる業務」を増やし、より戦略的な顧客コミュニケーションに時間を使えるようになってください。
わからないことがあれば、NotionコミュニティやMakeの公式ドキュメントも充実しているので、困ったときは遠慮なく質問してみましょう。一緒に自動化を進めていきましょう!