1. ゴールと前提条件
このワークフローで実現すること
新規顧客がサービスや製品を購入・契約した直後から、適切なタイミングで適切な情報を届ける「ウェルカムシーケンス」を自動化します。具体的には以下の業務を自動化することで、顧客の初期体験を最適化し、定着率を向上させます。
- 契約完了後の即時ウェルカムメール送信
- 初期設定ガイド・チュートリアルの段階的配信(Day 1, Day 3, Day 7など)
- 顧客の利用状況の自動記録とチーム共有
- 未完了アクションのリマインド通知
- オンボーディング完了率の可視化とアラート
このワークフローにより、顧客オンボーディングの工数を約70%削減しながら、パーソナライズされた体験を提供できます。
前提となる環境
このワークフローを構築するには、以下のツールとアカウントが必要です。
- Notion:顧客情報とオンボーディング進捗を管理するデータベース
- Make(旧Integromat):各ツールを連携させる自動化プラットフォーム(無料プランでも月間1,000オペレーションまで利用可能)
- Gmail:ウェルカムメールやリマインダー送信用(Google Workspace推奨)
- ChatGPT API:メール文面の自動生成・パーソナライズ用(OpenAI APIキーが必要)
- Slack:チーム内への進捗通知・アラート用
顧客が契約を完了する仕組み(フォーム、CRM、決済システムなど)が既に存在していることを前提としています。
2. 全体フローの俯瞰図
オンボーディング自動化ワークフローは、以下の4つのフェーズで構成されます。
- トリガー:新規顧客の契約完了
契約フォーム送信、Stripe決済完了、CRMでのステータス変更など、新規顧客が確定した瞬間を検知します。 - 情報整理・記録:Notionデータベースへの自動登録
顧客情報(名前、メール、契約プラン、開始日など)を自動的にNotionの「顧客オンボーディングDB」に記録します。 - AI処理・メール送信:段階的ウェルカムシーケンス
ChatGPT APIで顧客情報に基づいてパーソナライズされたメール文を生成し、Gmailから自動送信します。Day 1(即時)、Day 3(設定サポート)、Day 7(活用Tips)など、複数のタイミングで配信します。 - 通知・可視化:チーム共有とアラート
オンボーディングの進捗状況をSlackでチームに通知し、未完了が長引く顧客には担当者にアラートを送ります。
このフローにより、「契約した瞬間から顧客を見守り、適切なサポートを届ける」仕組みが完成します。
3. 使用するツールと役割
Notion:顧客情報と進捗状況の一元管理
Notionは、このワークフローの中央データベースとして機能します。「顧客オンボーディングDB」を作成し、以下の情報を管理します。
- 顧客名、メールアドレス、契約プラン
- 契約開始日、オンボーディング開始日
- 配信済みメール(Day 1, Day 3, Day 7など)
- 初期設定完了ステータス(未着手/進行中/完了)
- 最終アクティビティ日時
チームメンバーがリアルタイムで顧客の状況を確認でき、手動フォローが必要な場合もすぐに対応できます。
Make:ワークフロー全体のオーケストレーター
Makeは、各ツール間のデータ連携と自動実行を担います。以下のシナリオを構築します。
- シナリオ1:新規顧客登録時の即時対応
契約フォーム送信をトリガーに、Notionへの登録とDay 1ウェルカムメール送信を実行 - シナリオ2:段階的メール配信
毎日定時にNotionをチェックし、「契約後3日目」「7日目」などの顧客に対してメールを自動送信 - シナリオ3:進捗アラート
週次でNotionをスキャンし、初期設定が未完了の顧客をSlackに通知
Gmail:顧客へのメール配信
Gmail(またはGoogle Workspace)を使って、自動生成されたメールを顧客に送信します。独自ドメインのメールアドレスを使用することで、ブランドイメージを保ちながら配信できます。
ChatGPT API:メール文面のパーソナライズ
OpenAI ChatGPT APIを活用し、顧客の契約プランや名前に応じて個別最適化されたメール文面を自動生成します。テンプレートを使いつつも、画一的な印象を避けられます。
Slack:チーム内での進捗共有
Slackの特定チャンネル(例:#customer-onboarding)に、新規顧客登録の通知や、オンボーディング完了/未完了のアラートを送信します。チーム全体で顧客の状況を把握できます。
4. 手順詳細(ステップバイステップ)
STEP 1:Notionで顧客オンボーディングデータベースを作成
まず、Notionで以下のプロパティを持つデータベースを作成します。
| プロパティ名 | タイプ | 説明 |
|---|---|---|
| 顧客名 | タイトル | 顧客の氏名 |
| メールアドレス | メール | 連絡先メールアドレス |
| 契約プラン | セレクト | スタンダード/プレミアム/エンタープライズなど |
| 契約開始日 | 日付 | 契約が確定した日 |
| Day 1メール送信日 | 日付 | ウェルカムメール送信日時 |
| Day 3メール送信日 | 日付 | 設定ガイドメール送信日時 |
| Day 7メール送信日 | 日付 | 活用Tipsメール送信日時 |
| 初期設定ステータス | セレクト | 未着手/進行中/完了 |
| 最終アクティビティ | 日付 | 顧客が最後にアクションした日 |
ポイント:データベースを作成したら、Notion APIとの連携を有効にしてください。Notion設定から「インテグレーション」を追加し、データベースを共有します。
STEP 2:Makeで新規顧客登録トリガーを設定
Makeで新しいシナリオを作成し、トリガーを設定します。ここでは、Google Formsを例にします。
- トリガーモジュール:Google Forms「Watch Responses」
新規契約フォームが送信されたら、そのデータを取得します。 - データ変換:テキスト加工
フォームから取得した顧客名、メールアドレス、契約プランなどを変数に格納します。 - Notionモジュール:「Create a Database Item」
先ほど作成したNotionデータベースに、新規レコードを追加します。
– 顧客名:フォームの「氏名」フィールド
– メールアドレス:フォームの「メール」フィールド
– 契約開始日:現在日時(now関数)
– 初期設定ステータス:「未着手」
つまづきポイント:Notion APIは「データベースID」が必要です。NotionのデータベースURLから、`https://notion.so/xxxxx?v=yyyyy` の `xxxxx` 部分をコピーして使用してください。
STEP 3:ChatGPT APIでDay 1ウェルカムメールを生成
新規顧客が登録された直後に、パーソナライズされたウェルカムメールを自動送信します。
- HTTP モジュール:「Make a Request」
OpenAI ChatGPT APIにリクエストを送信します。
– URL: `https://api.openai.com/v1/chat/completions`
– Method: POST
– Headers: `Authorization: Bearer YOUR_API_KEY`
– Body (JSON):
{
"model": "gpt-4",
"messages": [
{
"role": "system",
"content": "あなたはカスタマーサクセス担当者です。新規顧客に温かくフレンドリーなウェルカムメールを作成してください。"
},
{
"role": "user",
"content": "顧客名:{{顧客名}}\n契約プラン:{{契約プラン}}\n\n上記の顧客向けに、サービスの価値を伝え、初期設定を促すウェルカムメールを300文字程度で作成してください。"
}
],
"temperature": 0.7
}
- レスポンスからメール本文を抽出
ChatGPTのレスポンス(`choices[0].message.content`)をメール本文として取得します。
STEP 4:Gmailでウェルカムメールを送信
- Gmailモジュール:「Send an Email」
– To: {{メールアドレス}}
– Subject: 「ようこそ!〇〇サービスへ」
– Content: ChatGPTが生成したメール本文 - Notionモジュール:「Update a Database Item」
送信完了後、Notionの「Day 1メール送信日」に現在日時を記録します。
STEP 5:Slackに新規顧客登録を通知
- Slackモジュール:「Create a Message」
– Channel: #customer-onboarding
– Message: 「新規顧客登録:{{顧客名}}さん({{契約プラン}})がオンボーディング開始しました!」
これでシナリオ1(新規顧客登録時の即時対応)が完成です。
STEP 6:段階的メール配信(Day 3, Day 7)のスケジュール設定
次に、契約後3日目、7日目に自動配信するメールを設定します。
- 新しいシナリオを作成(シナリオ2)
- トリガー:「Schedule」モジュール
毎日午前10時に実行するように設定します。 - Notionモジュール:「Search Objects」
以下の条件で顧客を検索します。
– 「契約開始日」が「今日から3日前」かつ「Day 3メール送信日」が空欄
– または「契約開始日」が「今日から7日前」かつ「Day 7メール送信日」が空欄 - Iteratorモジュール
検索結果の各顧客に対して以下の処理を繰り返します。 - Router(分岐)モジュール
– ルート1:Day 3メール送信(契約後3日目の顧客)
– ルート2:Day 7メール送信(契約後7日目の顧客) - 各ルートでChatGPT API → Gmail → Notion更新を実行
Day 3では「初期設定のステップバイステップガイド」、Day 7では「活用事例とTips」など、内容を変えたプロンプトをChatGPTに送ります。
つまづきポイント:日付の計算は、Makeの`addDays(now; -3)`などの関数を使います。日付フォーマットに注意してください。
STEP 7:進捗アラート(未完了顧客の検知)
最後に、オンボーディングが長引いている顧客を検知してアラートを送ります。
- 新しいシナリオを作成(シナリオ3)
- トリガー:「Schedule」モジュール
毎週月曜日午前9時に実行します。 - Notionモジュール:「Search Objects」
以下の条件で顧客を検索します。
– 「契約開始日」が14日以上前
– 「初期設定ステータス」が「未着手」または「進行中」 - Slackモジュール:「Create a Message」
– Channel: #customer-onboarding
– Message: 「⚠️ アラート:以下の顧客のオンボーディングが未完了です。フォローをお願いします。\n{{顧客名リスト}}」
これにより、放置されている顧客を早期発見し、手動フォローのタイミングを逃しません。
5. 自動化前後でどう変わるか(ビフォーアフター)
Before:手動でのオンボーディング対応
- 作業時間:1顧客あたり30〜60分
契約完了を確認→手動でメール作成→スプレッドシートに記録→3日後にリマインダー設定→7日後に再度メール…という繰り返し。 - ミスの発生:メール送信漏れ、タイミングのズレ、情報の記録忘れが頻発。特に新規顧客が集中する時期は対応が追いつかない。
- チーム共有:担当者しか状況を把握できず、引き継ぎが困難。Excelやスプレッドシートが散在し、リアルタイム性がない。
After:自動化されたオンボーディング
- 作業時間:1顧客あたり5分以下
契約完了と同時に全てのプロセスが自動起動。担当者は、アラートが出た顧客にのみ手動フォローすればOK。工数を約70%削減。 - ミスの削減:送信漏れやタイミングのズレがゼロに。全顧客に一貫した品質の体験を提供できる。
- チーム共有:Notionで全員がリアルタイムに進捗を確認可能。Slackで重要な通知が届くため、見逃しがない。
- 顧客満足度の向上:契約直後に即座にウェルカムメールが届くことで、「しっかりサポートされている」という安心感を与えられる。
6. 応用・拡張アイデア
基本ワークフローが動き始めたら、以下の拡張を検討してみてください。
① 顧客の行動データと連携
Googleアナリティクス、Mixpanel、Amplitudeなどのツールと連携し、「初回ログインしたか」「特定機能を使ったか」を判定。行動に応じてメール内容を変える(例:ログインしていない顧客には「まずはログインしてみましょう」、既にログインした顧客には「次のステップはこちら」)。
② NPS調査の自動配信
オンボーディング完了後(例:契約後30日目)に、NPS(Net Promoter Score)調査を自動送信。顧客満足度を定量的に測定し、フィードバックをNotionに自動記録します。
③ Zoomウェビナーの自動招待
契約プランが「エンタープライズ」の顧客には、専任サポート担当者との1on1オンボーディングセッションを自動提案。Zoom APIと連携し、カレンダー招待を自動送信します。
④ Stripe決済データとの統合
Stripe Webhookをトリガーにすることで、決済完了と同時にオンボーディングを開始。契約プランや金額に応じて、VIP顧客には特別なウェルカムギフト(クーポン、限定コンテンツなど)を自動送付します。
⑤ 多言語対応
顧客の言語設定(フォームで取得)に応じて、ChatGPT APIに言語指定を追加。英語・中国語・韓国語など、複数言語のウェルカムメールを自動生成できます。
7. よくある質問・つまづきポイントQ&A
Q1. メールが送信されない/エラーが出る
A. 以下をチェックしてください。
- Gmailの「安全性の低いアプリのアクセス」設定が有効になっているか(Google Workspaceの場合は不要)
- MakeのGmail接続が正しく認証されているか(再認証してみる)
- メールアドレスのフォーマットが正しいか(空白や特殊文字が含まれていないか)
Q2. Notion APIの接続がうまくいかない
A. Notion側でインテグレーションを作成し、データベースに明示的に共有する必要があります。Notionのデータベースページで「共有」ボタンをクリックし、作成したインテグレーション名を検索して追加してください。
Q3. ChatGPT APIのコストが心配
A. GPT-4は1,000トークンあたり約$0.03ですが、ウェルカムメール程度であれば1通あたり$0.01以下です。コスト削減したい場合は、GPT-3.5-turboを使うか、テンプレート文に{{顧客名}}だけを差し込む簡易版にすることもできます。
Q4. 日付計算がズレる
A. Makeのタイムゾーン設定を確認してください。デフォルトはUTCになっている場合があるため、シナリオ設定で「Asia/Tokyo」に変更します。また、Notionの日付フィールドもタイムゾーンを統一してください。
Q5. 顧客が重複登録されてしまう
A. フォームが複数回送信された場合、重複を防ぐためにMakeの「Router」機能で、Notionに既に同じメールアドレスが存在するかをチェックするフィルターを追加します。存在する場合はスキップするルートを設定してください。
8. まとめ:まずどこから着手すべきか
オンボーディング自動化は、一度にすべてを構築する必要はありません。小さく始めて、段階的に拡張するのが成功のコツです。
推奨する着手順序
- まずはDay 1ウェルカムメールだけ自動化
新規顧客登録と同時にウェルカムメールが送られるだけでも、顧客体験は大きく向上します。STEP 1〜5までを実装してみましょう。 - Notionでの進捗管理を追加
チーム全員が顧客の状況を把握できるようになれば、手動フォローの精度が上がります。 - Day 3, Day 7のメール配信を追加
段階的な情報提供により、顧客の定着率が向上します。STEP 6を実装します。 - アラート機能で未完了顧客を検知
放置されている顧客を早期発見し、手動フォローのタイミングを逃さないようにします。STEP 7を実装します。 - 応用機能を追加(行動データ連携、NPS調査など)
基本ワークフローが安定したら、高度なパーソナライズやデータ分析を追加していきます。
最初の1週間で目指すゴール
- 新規顧客登録から5分以内にウェルカムメールが自動送信される
- Notionに顧客情報が自動記録される
- Slackで新規顧客登録の通知が届く
このゴールを達成できれば、オンボーディング業務の基盤が完成します。その後は、メール配信の頻度やタイミング、文面を調整しながら、自社にとって最適なワークフローに育てていきましょう。
顧客オンボーディングは、サービス継続率を左右する最重要プロセスです。自動化によって、すべての顧客に一貫した高品質な体験を届けることができます。まずは小さな一歩から、ぜひ始めてみてください。