こんにちは、NeuroStackを運営しているユウキ・カミシロです。
見積書や請求書の作成業務は、多くの企業で「定型的だけど手間がかかる」業務の代表格です。エクセルやWordで一つひとつ作成し、数字を転記し、PDFに変換して送付する……。この繰り返しは時間がかかるだけでなく、転記ミスや送付漏れといったヒューマンエラーも起こりやすい領域です。
本記事では、見積書の作成から請求書の発行、入金管理までを一気通貫で自動化するワークフローをご紹介します。Notion、Make、Googleスプレッドシート、ChatGPTを組み合わせることで、これまで1件あたり15〜20分かかっていた作業を、わずか数分に短縮できるようになります。
1. ゴールと前提条件
このワークフローで実現すること
このワークフローでは、以下の業務フローを自動化します:
- 見積書の自動作成:案件情報を入力するだけで、テンプレートに沿った見積書を自動生成
- 見積書から請求書への変換:受注確定後、ワンクリックで請求書に変換
- PDF自動生成と送付:作成した書類を自動的にPDF化し、クライアントにメール送付
- 入金ステータスの管理:請求書の発行日、支払期限、入金状況を一元管理
- リマインド通知:支払期限が近づいたら自動的にSlackやメールで通知
前提となる環境
このワークフローを実装するには、以下のツールとアカウントが必要です:
- Notion:案件情報と見積・請求データベースの管理
- Make(旧Integromat):各ツール間の連携を自動化
- Googleスプレッドシート:見積書・請求書のテンプレート作成とPDF生成
- ChatGPT API:見積内容の自動要約や、メール文面の自動生成
- Gmail:書類の送付用(Gmailアカウントが必要)
- Slack(オプション):チーム通知用
いずれのツールも無料プランから始められますが、Makeは月間処理数に制限があるため、業務量に応じて有料プランの検討が必要です。
2. 全体フローの俯瞰図
このワークフローは、以下の4つのステップで構成されています:
- トリガー:Notionに案件情報を入力
案件名、クライアント情報、商品・サービス内容、金額などをNotionのデータベースに入力します。 - 情報整理:Makeが自動的にデータを取得
Notionに新規レコードが作成されたことをMakeが検知し、必要な情報を抽出します。ChatGPT APIを使って、見積内容の要約文や送付メールの本文を自動生成します。 - 書類作成:Googleスプレッドシートで見積書を生成
テンプレート化されたスプレッドシートに、Makeが取得したデータを自動的に反映。その後、PDFとして出力します。 - 送付・記録:自動メール送信と進捗管理
生成されたPDFをGmailで自動送付し、送付記録をNotionに保存。請求書発行後は、支払期限に応じてリマインド通知を自動送信します。
この一連の流れにより、「入力→生成→送付→管理」がシームレスに連携し、人の手を介さずに完結します。
3. 使用するツールと役割
Notion:案件と書類のデータベース管理
Notionは、案件情報のマスターデータベースとして機能します。以下の情報を一元管理します:
- 案件名、クライアント名、担当者
- 商品・サービスの内容、単価、数量
- 見積書番号、請求書番号
- 発行日、支払期限、入金ステータス
Notionのデータベース機能を使うことで、案件ごとの進捗状況を視覚的に把握できます。
Make:ワークフロー全体の司令塔
Makeは、Notionからのデータ取得、ChatGPTへのリクエスト、スプレッドシートへのデータ反映、Gmail送信など、すべての連携処理を自動化する中核ツールです。
ノーコードで視覚的にワークフローを構築でき、APIキーの設定だけで各ツールと接続できるため、プログラミング知識がなくても実装可能です。
Googleスプレッドシート:書類テンプレートとPDF生成
スプレッドシートには、見積書・請求書のテンプレートをあらかじめ作成しておきます。Makeから送られてきたデータを特定のセルに自動入力し、Google DriveのPDF出力機能を使って書類を生成します。
テンプレートは自社のフォーマットに合わせてカスタマイズでき、インボイス制度にも対応可能です。
ChatGPT API:文章の自動生成と要約
ChatGPT APIは、以下の用途で活用します:
- 見積内容の要約文を自動生成(メール本文に挿入)
- クライアントへの送付メールの文面を自動作成
- 商品説明の整形や、備考欄の文章整理
これにより、毎回同じようなメール文を書く手間が省け、かつ丁寧で分かりやすい文章を自動生成できます。
4. 手順詳細(ステップバイステップ)
STEP 1:Notionデータベースの構築
まず、Notionで案件管理用のデータベースを作成します。以下のプロパティを設定してください:
| プロパティ名 | タイプ | 説明 |
|---|---|---|
| 案件名 | タイトル | 案件の名称 |
| クライアント名 | テキスト | 取引先の会社名 |
| 担当者名 | テキスト | 先方の担当者名 |
| メールアドレス | メール | 送付先のメールアドレス |
| 商品・サービス内容 | テキスト | 提供する内容の詳細 |
| 単価 | 数値 | 1点あたりの単価 |
| 数量 | 数値 | 提供数量 |
| 合計金額 | 数式 | 単価 × 数量で自動計算 |
| 消費税 | 数式 | 合計金額 × 0.1で自動計算 |
| 請求額 | 数式 | 合計金額 + 消費税 |
| 書類タイプ | セレクト | 「見積書」「請求書」を選択 |
| 発行日 | 日付 | 書類の発行日 |
| 支払期限 | 日付 | 請求書の支払期限 |
| 入金ステータス | セレクト | 「未入金」「入金済み」 |
| PDF URL | URL | 生成されたPDFのリンク |
ポイント:Notionの数式機能を使うことで、金額の計算ミスを防げます。また、セレクトプロパティを使うことで、後の自動化処理で条件分岐がしやすくなります。
STEP 2:Googleスプレッドシートのテンプレート作成
次に、見積書・請求書のテンプレートをGoogleスプレッドシートで作成します。
- 新しいスプレッドシートを作成し、「見積書テンプレート」「請求書テンプレート」の2つのシートを用意
- 自社のロゴ、会社情報、振込先情報などを固定で記載
- 以下のセルを変数として設定(Makeから自動入力される箇所):
- A1:書類番号(例:EST-2025-001)
- A3:発行日
- A5:クライアント名
- A7:案件名
- A10〜A15:商品・サービス内容、単価、数量、金額
- A20:小計
- A21:消費税
- A22:合計請求額
ポイント:セル番地を固定することで、Makeからのデータ挿入が確実になります。また、複数の商品を扱う場合は、A10〜A15のように範囲を広めに取っておくと柔軟に対応できます。
STEP 3:Makeシナリオの構築
いよいよMakeでワークフローを構築します。以下の流れでモジュールを配置してください。
3-1. Notionトリガーの設定
- Makeにログインし、新しいシナリオを作成
- 「Notion」モジュールを追加し、「Watch Database Items」を選択
- Notionアカウントを接続し、先ほど作成したデータベースを指定
- トリガー条件:「新規レコード作成時」または「書類タイプが更新された時」
つまづきポイント:NotionのAPI接続には、Notion側でインテグレーションを作成し、データベースに共有権限を付与する必要があります。Notion設定画面で「接続」→「インテグレーション」から追加してください。
3-2. データの取得と整形
- 「Router」モジュールを追加し、「見積書」と「請求書」の2つのルートに分岐
- 各ルートに「Filter」を設定:
- ルート1:書類タイプ = 「見積書」
- ルート2:書類タイプ = 「請求書」
3-3. ChatGPT APIで文章生成
- 「OpenAI」モジュールを追加し、「Create a Completion」を選択
- プロンプト例:
「以下の見積内容を、クライアントに送付するメールの本文として、丁寧かつ簡潔にまとめてください。
案件名:{{案件名}}
内容:{{商品・サービス内容}}
金額:{{請求額}}円」
- 出力されたテキストを変数として保存
3-4. Googleスプレッドシートにデータ入力
- 「Google Sheets」モジュールを追加し、「Update a Cell」を選択
- 先ほど作成したテンプレートシートを指定
- 各セル番地に対応するNotionのデータをマッピング:
- A1 ← 書類番号
- A3 ← 発行日
- A5 ← クライアント名
- (以下同様にマッピング)
ポイント:Makeの「Set Variable」モジュールを使って、書類番号を自動採番することも可能です(例:EST-{{formatDate(now; “YYYYMMDD”)}}-{{Notion ID}})。
3-5. PDFの生成
- 「Google Drive」モジュールを追加し、「Download a File」を選択
- 出力形式を「PDF」に指定
- 生成されたPDFのURLを変数として保存
3-6. Gmailで自動送付
- 「Gmail」モジュールを追加し、「Send an Email」を選択
- 宛先:{{メールアドレス}}
- 件名:「【見積書送付】{{案件名}}の件」
- 本文:ChatGPTで生成したメール文
- 添付ファイル:先ほど生成したPDF
3-7. Notionに送付記録を保存
- 「Notion」モジュールを追加し、「Update a Database Item」を選択
- 対象レコード:トリガーで取得したレコードID
- 更新内容:
- PDF URL ← 生成されたPDFのリンク
- 送付日 ← {{now}}
- 送付ステータス ← 「送付済み」
STEP 4:請求書リマインド機能の追加
請求書の支払期限が近づいたら、自動的にリマインド通知を送る仕組みも追加しましょう。
- 新しいMakeシナリオを作成
- 「Schedule」モジュールで毎日定時実行(例:毎朝9時)
- 「Notion」モジュールで「Search Database Items」を選択
- フィルター条件:
- 書類タイプ = 「請求書」
- 入金ステータス = 「未入金」
- 支払期限 = 今日から3日以内
- 該当レコードがあれば、Slackまたはメールで通知
通知例:
「【リマインド】{{クライアント名}}様への請求書({{案件名}})の支払期限が{{支払期限}}に迫っています。入金確認をお願いします。」
STEP 5:動作確認とテスト
- Notionに実際の案件データを入力
- Makeシナリオが正常に動作するか確認
- 生成されたPDFのレイアウトをチェック
- メール送信が正しく行われているか確認
- Notionへの記録が正確か確認
つまづきポイント:初回実行時は、Makeの各モジュールで「Run this module only」を使って、1つずつ動作確認することをおすすめします。エラーが出た場合は、接続権限やAPIキーの設定を再確認してください。
5. 自動化前後でどう変わるか(ビフォーアフター)
作業時間の比較
| 作業内容 | 自動化前 | 自動化後 |
|---|---|---|
| 見積書作成 | 15分/件 | 2分/件 |
| 請求書作成 | 10分/件 | 1分/件 |
| PDF変換・送付 | 5分/件 | 0分(自動) |
| 入金管理・リマインド | 30分/週 | 0分(自動) |
| 合計(月50件の場合) | 約30時間 | 約3時間 |
このワークフローを導入することで、月あたり27時間、年間で324時間の削減が見込めます。
ミスの発生率
- 自動化前:転記ミス、計算ミス、送付漏れが月に2〜3件発生
- 自動化後:データソースが一元化され、ヒューマンエラーがほぼゼロに
メンバー間の共有のしやすさ
- 自動化前:エクセルファイルが個人のPCに散在し、最新版の把握が困難
- 自動化後:Notionで一元管理され、誰でもリアルタイムで進捗状況を確認可能
6. 応用・拡張アイデア
アイデア1:複数商品対応の拡張
現在のワークフローは単一商品を想定していますが、Notionのデータベースを「案件」と「商品明細」の2つに分割し、リレーション機能で紐付けることで、複数商品を含む見積書にも対応できます。
アイデア2:承認フローの追加
見積書を送付する前に、上長の承認を得る仕組みを追加できます。Notionのステータスを「承認待ち」「承認済み」などに分け、承認済みになった時点でMakeが自動送付する設定にすると良いでしょう。
アイデア3:売上レポートの自動生成
Notionのデータベースから、月次・四半期ごとの売上データを自動集計し、Googleスプレッドシートでグラフ化。Slackに定期送信することで、経営判断の材料を自動的に提供できます。
アイデア4:会計ソフトとの連携
マネーフォワードクラウド会計やfreeeなどのAPIと連携することで、請求書発行と同時に会計仕訳を自動登録できます。これにより、経理業務の二度手間を防げます。
アイデア5:入金確認の自動化
銀行口座と連携し、入金が確認されたら自動的にNotionの入金ステータスを「入金済み」に更新する仕組みも構築可能です。マネーフォワードMEのAPIなどを活用すると実現できます。
7. よくある質問・つまづきポイントQ&A
Q1. Makeのシナリオが実行されない場合は?
A. 以下の点を確認してください:
- Notionのインテグレーション権限が正しく設定されているか
- Makeのシナリオが「ON」になっているか
- トリガー条件(フィルター)が厳しすぎないか
- 各モジュールのAPI接続が有効か(再認証が必要な場合がある)
Q2. PDFのレイアウトが崩れる場合は?
A. Googleスプレッドシートの印刷設定を確認してください。「ファイル」→「印刷設定」から、余白やページの向きを調整し、「1ページに収める」設定にすると崩れにくくなります。
Q3. ChatGPTのメール文が不自然な場合は?
A. プロンプトをより具体的にし、例文を含めると精度が上がります。また、「丁寧な敬語で」「150文字以内で」などの条件を追加すると、意図に沿った文章が生成されやすくなります。
Q4. 複数のクライアントで書類フォーマットが異なる場合は?
A. Googleスプレッドシートのテンプレートをクライアントごとに複数用意し、Notionに「テンプレートID」プロパティを追加してください。Makeのルーター機能で条件分岐させることで、クライアントに応じたテンプレートを自動選択できます。
Q5. セキュリティが心配です
A. NotionやGoogleドライブの共有設定を適切に管理し、Makeの接続も最小権限の原則で設定してください。また、機密情報を含む書類は、暗号化されたPDFとして送付する設定も可能です(GmailのConfidential Modeを活用)。
8. まとめ:まずどこから着手すべきか
このワークフローは一見複雑に見えますが、段階的に導入することで無理なく実装できます。以下のステップで進めることをおすすめします:
フェーズ1:まずはNotionでデータ管理を始める
いきなり全自動化を目指すのではなく、まずはNotionで案件情報を一元管理するところからスタートしましょう。エクセルやメールに散らばっていた情報を集約するだけでも、業務の見通しが格段に良くなります。
フェーズ2:見積書の自動生成だけを実装
次に、Notionからスプレッドシートへのデータ連携と、PDF生成までをMakeで自動化します。この段階では、送付は手動で行っても構いません。まずは「書類作成の自動化」という成功体験を得ることが重要です。
フェーズ3:メール送付と記録の自動化を追加
見積書生成が安定したら、Gmailでの自動送付と、Notionへの記録保存を追加します。ここまで来れば、「入力するだけで送付まで完了」という理想的な状態が実現します。
フェーズ4:リマインド機能や応用機能を拡張
最後に、請求書のリマインド通知や、売上レポートの自動生成など、より高度な機能を追加していきます。ここまで来れば、見積・請求業務はほぼ完全に自動化され、本来の営業活動や顧客対応に集中できるようになります。
最初の一歩として
「まず今週中に、Notionのデータベースを作って、現在進行中の案件を5件だけ入力してみる」
これだけでも、十分に価値があります。完璧を目指さず、小さく始めて徐々に拡張していく姿勢が、自動化成功の鍵です。
見積書・請求書業務は、多くの企業で「当たり前の作業」として受け入れられていますが、実はAIとSaaSの組み合わせで劇的に効率化できる領域です。ぜひこの記事を参考に、あなたのビジネスに合わせたワークフローを構築してみてください。
何か質問や困ったことがあれば、NeuroStackのコミュニティでもサポートしていますので、お気軽にお声がけください。